専門用語を理解するには

SEの仕事を始めて1年経つが、よく分かっていないコンピュータ用語はまだまだたくさんある。聞いたことすらないものだけでなく、聞いたことがあっても明確にイメージできていない用語も多い。打ち合わせなどで、そういった、馴染みのない用語が飛び交うと、とたんに話についていけなくなってしまう。難解な専門用語に悩まされることは、何もITの業界に限った話ではないと思う。

今日は、難解な専門用語を理解するための条件について、考えてみたい。すなわち、「分からない」という状態で思考停止してしまうのではなく、「何を知れば分かるか」として、理解に必要な条件を挙げてみる。あくまで自分の経験則にすぎないため、条件を網羅できているかは定かでないが、3つ列挙してみた。

・定義を知る
これは基本中の基本で、特に意外な話ではない。「分からない用語は調べろ」というとき、まず定義を知ろうとすることに、異論はないと思う。定義を知らなければならない理由は、用語の唯一無二の特徴を知るためである。例えば、フルーツの定義が「○○科△△属」と記されていることで、個々のフルーツの、一意に定められた特徴を知ることができる。

しかし、社会の仕組みが複雑になるにつれ(フルーツで言えば、品種の数が増えるにつれ)、用語の定義も細分化せざるを得なくなり、定義そのものが難解な説明になる。定義を調べても、説明が専門的すぎてさっぱりわからない、となってしまうのはそのためである。このような場合、定義を調べることに加え、下の二つも調べる必要が出てくる。


・似た意味の用語との違いを知る
ここには2つの効果が期待できる。

1つ目は、似た意味の用語を集めることで、用語のイメージを知ることである。例えば、「せとか」というフルーツがあるのをご存じだろうか。「せとか」に似たフルーツには、清見オレンジ、みかん、アンコールなどなどである。似たものを集めることで、「オレンジっぽいもの」というイメージができる。見たことも聞いたこともない用語に出会ったとき、「何となくイメージができている」というのは決定的に重要である。(もちろん、十分ではない。)

2つ目は、対比で意味を規定できる、ということである。そもそも、用語が指し示す特徴は、別の用語との対比によってしか表出されないはずである。先の「せとか」の例で言えば、清美オレンジやアンコールなどと比べることで、色・糖度・保水量などに特徴が現れる。対比によって、初めて用語の持つ価値が際立つのである。

しかし、定義を知り、似た用語との違いを知るだけでは、まだ不十分なのだ。なぜなら、これだけでは言葉の意味・イメージを知ったに過ぎないためである。現実の場面で自分が用語を使いこなすには、もうひとつ知らなければならないことがある。


・使用例を知る
その専門用語が使用されるのは、どんな状況であり、それによって何ができるか、ということである。フルーツの例では分かりにくいので、コンピュータ用語の例で考えてみたい。例えば、「ドメイン」というネットワーク用語を理解する際、「ドメイン設定を変更するのは、ネットワーク上でアクセスの制限をしたい状況のときである」という具合に、「ドメイン」が実際の現場で使用される例を知ることで、格段にイメージが広がる。前項が言葉のイメージだったのに対し、こちらは現場での使用イメージである。


最後に、私が経験則からこの3つのポイントを抽出した経緯について記しておきたい。実は、この3つのポイントは、IT業界に入る前、大学・大学院で研究を進める間に見つけた経験則である。研究をするとき、抽象的で難解な理論に出会うことは不可避である。その一つに、ルーマンの社会システム理論があった。何とか試行錯誤をする中で、約3年ぐらいかけてルーマン関連の本を読み続け、ようやく理解するに至った。振り返ると、理解するためのポイントは、3つ集約されることに気がついたのである。当時の3つのポイントは、以下であった。

ルーマン本人が書いた著作を読むこと。(ルーマン本人による定義を知ること。)
ルーマン以外の研究者によって書かれた解説を読むこと。(ルーマン理論と他の社会学者の理論、特に、パーソンズとの比較を知ること。)
ルーマン理論の枠組みを使って、社会現象を分析した論文を読むこと。(研究室の先輩の論文を読んで、ルーマン理論の使い方を知ること。)


今日はずいぶん長くなってしまったが、しばらくは、この3つの経験則でいけるんじゃないかと勝手に思っている。